2022年秋。静岡県焼津市に、1棟目のモデルハウスが建ちました。
国道に面した住宅街の角地、建坪22坪の平家です。
駐車場から玄関まで、段差の少ない通路。
キッチンからダイニング、リビングまでぐるりと続く、手すりを兼ねた壁面装飾。
天窓からやわらかな朝日が注ぐ寝室。
けっして大きくはありませんが、長く愛せる洗練された建材と意匠、
そして高齢者を支える機能とアイデアが主張することなく
随所に織り込まれています。
ただこの家は、まだ未完成です。
そこにあなたの「個」が入っていないからです。
身長・体重・健康状態などの身体的特徴、好き嫌い・心地良い悪いなどの嗜好性、
長年の趣味や習慣など、あなたのパーソナリティが反映されていません。
だからモデルハウスであり、未完成なのです。
これからあなたと一緒に、たくさんの会話をしながら、
時間をかけて完成させていきたいと思っています。
経年で変わる心身の状態や習慣だってあるでしょう。
新しい趣味が見つかることだって。
生涯にわたってあなたに寄り添い、足りないところを補いながら、
成熟させていきたいと思っています。
完成品を押しつけるのではなく、未完成のまま手直しを繰り返しながら、
あなたの老いを支え続けます。
そしていつの日か、「すずきの家」になり、
「さとうの家」になり、「やまだの家」になったとき、
はしもとの家は初めて完成するのです。
住まいとは、人生の物語が最も色濃く重なる場所です。
「はしもとの家」は、子ども時代の笑い声も、大人になった子の帰省も、
そして人生の終章さえも、すべてを包み込む器でありたいと考えています。
建築家・伊藤孝紀氏が提唱した「未完成で成熟していく家」という思想。
それは、家を“使い切る”ものではなく、“共に育ち、見守り続ける”存在として捉える価値観です。
思いでとともに最後の時間を過ごす空間が、
光のゆらぎや、
やわらかな手すり、
記憶を宿す木の香りとともにあるなら、
そこには「死」ではなく、「静かな暮らしのつづき」が広がると、
私たちは考えます。
はしもとの家は、人生のあらゆる季節にやさしく寄り添い、
「おかえり」と「ありがとう」が交差する場所でありたいと願っています。